「校長室の窓」をご覧の皆様。こんにちは。5月11日月曜日の「校長室の窓」に掲載させていただいた記事の中で、「当たり前の日常生活を過ごせないことに対する不安」への対応として、こういうときこそ普段以上に規則正しい生活を心掛けることが大事ではないかと記しましたが、生徒の皆さんはその後どのように過ごしているでしょうか。もしかしたら、真面目に考えすぎてしまい、理想と現実とのギャップに悩んでいる人もいるかもしれないと思いました。例えば、頑張って早起きはしているものの、計画どおりの1日を過ごすことはできず、結局何も進まない自分が嫌になって、早起きなんか意味がないと思ってしまった人がいそうな気がします。ですが、よく考えてみると、学校がないのに早起きができているだけでも自分をほめて良いと思います。早起きなどの規則正しい生活習慣は、学校が再開したときにスムーズに学校生活を送ることができるようにするための大切な準備です。予定では、あと2週間で学校が再開します。これからの2週間は、再開したあとの学校生活の質を高めるための準備期間と捉えて、たとえ今はその質に不満があったとしても規則正しい生活自体に意味があるのだと考えると、気が楽になるのではないでしょうか。

 さて、今回の「読書のすすめ」は、私が「芋づる式」読書で経験した偶然の出会いの面白さについてのエピソードを紹介します。気楽に読んでいただければと思います。

 平成23年(2011年)に札幌市教育委員会が定めた本校の設置基本構想の育てたい生徒像の中に、「国際社会で活躍する」という文言があります。当時、この「国際社会で活躍する」というのはどのような人のことを指すのだろうと思って、いろいろな本に当たってみた記憶があります。その中の一つに、秋田県にある国際教養大学の初代学長をされていた中嶋嶺雄氏の著書がありました。(本を読んだ当時はご存命でしたが2013年にお亡くなりになられたというニュースを見てとても残念に思った記憶があります。)中嶋氏の著書によれば、当時の国際教養大学の必読書の一つとして新渡戸稲造の『武士道』が紹介されていました。「外国人に自分が日本人であることを、どのようにみなさんは説明するのでしょうか?」(中嶋嶺雄著『学歴革命』、KKベストセラーズ、2012年、109ページ)という文脈の中で登場する『武士道』は、「『宗教がない国で、どうやって子孫に日本人としての道義を伝えていくのか』という問いに対する回答として書かれたもの」(同書109ページ)と紹介されています。

 新渡戸稲造といえば、札幌農学校で学んだ人物でもあり私たちにはなじみのある人物です。5千円札の肖像にもなったことがありますので知っている方も多いと思います。しかし、『武士道』を読んだことはありますか?と問われときに「はい」と答える人はそんなに多くない気もします。『武士道』は新渡戸稲造がなんと英語で著した本ですが、英語で読んだことがある人がいたら、それは相当勉強熱心な人なのだろうと思います。恥ずかしながら私もこのときまで、日本語訳すら読んだことがありませんでしたので、当時、遅ればせながら日本語訳の本を読んでみました。日本語訳ではあっても言葉が難しく、辞書を片手に言葉を調べながら読む必要がありましたが、色々と考えさせられることがあり、読んだ甲斐がありました。

 時は流れて2、3年前のことになりますが、全く異なる興味・関心から、ライアン・ゴールドスティンというアメリカ人弁護士の著した『交渉の武器』(ダイヤモンド社、2018年)という本を通して再び新渡戸稲造と出会いました。今度は1920年に設立された国際連盟の職員としての活躍についてでした。新渡戸稲造は国際連盟の事務次長として、当時、スウェーデンとフィンランドとの間に生じていたオーランド諸島の領土問題の解決に尽力し、いわゆる「新渡戸裁定」と呼ばれる解決案を示すことになるのですが、その考え方の根底に、「日本人が根っこにもっている『三方一両損』の精神」(同書214ページ)があると著者は分析していました。(オーランド諸島の領土問題や「三方一両損」のについて知りたいと思った生徒の皆さんは、是非調べてみてください。新たな発見があるかもしれません。)

 全く別々の興味・関心からスタートした本と本が、その中で紹介される新渡戸稲造という人物を通して、しかも同じ日本人の精神をテーマとして1本の「芋づる」でつながるというのも読書の面白さのような気がします。今回の読書MAPではそのことを表現してみました。
▼「芋づる式!読書MAP」(白マップに追記)

 ちなみに、中嶋嶺雄氏は、『武士道』(現在は角川書店のハルキ文庫で、矢内原忠雄訳の本が税別267円で読めます)のほかにも、岡倉天心の著した『茶の本』(私は角川ソフィア文庫、2015年初版の大久保喬樹訳の新訳本で読みました)やルース・ベネディクトの著した『菊と刀』(私は講談社学術文庫、2005年初版の長谷川松治訳のものを読みました)などもお勧めの本として紹介しています。いずれも原語は英語です。私は残念ながら日本語訳しか読めませんが、本校で学んだ子どもたちの中には、卒業の頃までにはこれらの本を原語で読むことに挑戦する人たちも出てくるのではないかと期待しています。

 本日もご覧いただきありがとうございました。

令和2年(2020年)5月18日