校長室から:不便益
テレビのCMで、レコードをクリーニングしているタモリさんに、
宮沢りえさん:いちいち面倒くさくないですか。
タモリさん :面倒だからいいんじゃないの。
と答えるシーンがありますが、これと似た経験をお持ちの方も多いのではないかと思います。現代社会は、技術革新が進み、より便利
な世の中になっていますが、不便であることに価値を置くという発想があります。高校生の皆さんは中学校1年生の時に国語の授業*1
で「『不便』の価値を見直す」という授業を受けたと思います。
数年前に、新聞なのかテレビなのかは忘れてしまいましたが、不便益という言葉を知りました。不便益とは不便の益。英語でいうと、
benefits of inconveniennce で、不便さがもたらす利益となります。 何をするにも便利さやスピードが求められる現代社会において
は逆の発想です*2。
私たちの身の回りにも、あえて不便さを利用した事例がいくつかあります。身体機能の
低下を防ぎ、自立を促す段差のある老人ホームなどの施設、子どもの転倒や転倒からの回
復力を養うあえてでこぼこにした幼稚園などの園庭、オフィスで少し歩かせることで同僚
素数ものさし*3 との偶発的な会話を誘発するあえて遠くに置いたウォーターサーバーなど。
学校においても、教職員の働き方改革が叫ばれる中、効率重視の業務改革が進められており、これも必要な改革ではあると思います
が、本来、経験すべきことを経験せずに年月だけが過ぎていくことだけは避けたいところです。 もう死語になっているかもしてません
が、「若い時の苦労は勝手でもしろ」という言葉の重みは今こそ必要ではないかと考えています。 人間ですから、苦労したくないとい
う気持ちは理解できます。しかし、その苦労がそのあとに生きてくるのも確かです。
同じことが高校生にも言えると思います。部活動についても大学受験についても、それを成し遂げたいと思うならば、大きな努力は
必要であり、厳しい困難を乗り越えることが必要です。この高校生という時代に、困難に立ち向かうということを経験することで、次
に現れるさらに厳しい困難にも立ち向かえると思います。
不便益に話を戻します。車の自動運転の技術が大きく進歩しています。北海道でも自動運転のバスの定期運航が始まっており、自家
用車の市街地の運転についてもそう遠くない未来に自動運転になると予測されています。一方、自ら車の運転をすることに喜びを感じ
る人もいます。現在でも、あえてマニュアル車に乗っている人も少なくありません。今の時代は心の豊かさを求める時代でもあります。
歩くことで今まで知らなかった場所を見つける、寒さに負けず冬のアクティビティを楽しむ、最短ではなくあえて遠回りして目的地ま
での景色を楽しむ、豆を挽くところからコーヒーを入れるなど、不便益を楽しんでみるのもよいかもしれません。
*1 札幌市立中学校1年国語の教科書 光村図書
*2 京都先端科学⼤学 川上浩司教授が 不便益の第1人者。現在、不便益システム研究所代表。
*3 素数ものさし:使いにくいとの評判から発売3か月で1000本を売り上げた。京都大学生協で購入可能(大日本図書HPより)。
ものさし自体は18cmで、18cm以下の自然数の長さが図れる。
画像提供は不便益システム研究所。
令和8年(2026年)1月28日
校 長 宮 田 佳 幸


