㉜伊勢物語-絵巻物&古典を学ぶ意味-(国語科54期1年次)
2026年度の1年生(2組)を対象に、『伊勢物語』-古典を学ぶ意味-と題して、言語文化の授業を実施しました。
『伊勢物語』 全体像説明プリント.pdf [ 237 KB pdfファイル]
伸ばしたい力
a.言葉には、文化を継承・発展させる働きがあることを理解する力
b.古典の世界に親しむために、作品の文化的背景などを理解する力
c.古文の内容・構成・展開などを的確に捉える力
d.ものの見方・感じ方・考え方を深めながら、日本の言語文化について自分の考えをもつ力
単元の流れ
STEP1.『伊勢物語』の概要や「日本美術」の特徴を把握する。
STEP2.絵巻物を読み解きながら、古文を訳す際のポイントを把握する。
STEP3.『伊勢物語』「芥川」を現代語訳し、重要語句や文法を学びながら、「古典を学ぶ意味」を体感する。
STEP4.配布された文章を読み、「古典を学ぶ意味」について考えを巡らし、現時点での自分の考えを記述する。
STEP1(1時間)
まずは、『伊勢物語』の概要を紹介し、主人公の男(在原業平)が生涯で3733人の女性と関係を持ったこと、そこから平安時代における「色好み」とは何か(現在の「恋愛」とは異なること)、そして和歌が持つ役割について説明しました。

次に、日本美術の特徴として、「1.絵画形式・構図・技法」(絵巻物,大和絵,吹抜屋台,すやり霞,連続式構図,段落式構図)や「2.顔・服装」(引目鉤鼻,狩衣・褐衣)を紹介しました。
特に服装については、SETP2における絵巻物の読み解きで重要となるため、貴族と従者の服の違いをビジュアルで把握する時間を取ることにしました。
STEP2(2時間)
まず、14段「くたかけ」の絵巻物をグループで読み解く時間を取りました。

多くのグループがSTEP1で獲得した知識をもとに、服装から「男の身分が高いこと」と、外壁に装飾がないことや室内(画面右上)にネズミがいることから「女の身分がそれほど高くないこと」を読み取ることができました。
そこから、STEP1で伝えた『伊勢物語』の概要を踏まえ、この絵巻物がどのような場面であるかを推測してもらいました。生徒たちはこの場面を「男が関係を持った女を見捨てたため、女が嘆きながら簾越しにうなだれている場面」、あるいは「身分差を超えた禁断の恋」などと推測していました。
そこで、絵の中にネズミ以外の動物がいることを伝えました。実は、よく見ると画面中央下には鶏がいます。そのうえで、この章段のタイトル「くたかけ」は「腐れ鶏」という意味であることを伝えました。
推測した内容と異なる雰囲気を感じながら、実際にどのような内容なのか、本文と現代語訳の資料を配付すると、生徒たちの予想に反し、この場面は「垢抜けない和歌を贈ってきた女と一夜をともにした男が、朝を待たずにそそくさと帰ろうとしたところ、女は『あの鶏が時間外れに鳴いたせいで男が帰ってしまった!水槽にぶち込んでやる!』と見当違いの和歌を詠み、それにあきれた男が別れの和歌を詠むものの、その女は和歌の内容を勘違いして『あの人はまだ私を思ってくれているわ』と喜んだ」という内容であることが分かりました。
このことから、美術作品によって当時の様子を想像しやすくはなるものの、そこでは人物の心情を明確に読み取ることができないため、文学作品では人物の設定や心情に着目して内容を読み取る必要があること、そしてSTEP1で説明した通り、和歌を理解する教養がなければ男女の情感を交わすことができないことを生徒たちは体感しました。
次に、90段「桜花」の絵巻物を見て内容を推測しました。

建物の様子から高貴な女性が二人いることや、男の服装が従者のようであるため主人公である在原業平は別の場所にいることを読み取り、そう考えると「業平が従者に頼んで桜と和歌を女房経由で奥にいる女性に渡そうとしている場面である」と多くの生徒たちが推測しました。
この推測は概ね合っており、そのうえで奥にいる女はどのような人物か、和歌の内容はどのようなものであるのかを、本文を読むことで確認するために、古文の読み方をレクチャーし、生徒たちは古文の世界に触れていきました。
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STEP3(5時間)
その後、教科書に掲載されている『伊勢物語』6段「芥川」をペアで訳す時間を取り、重要語句・助詞・助動詞・主語取りを意識すれば自分たちの力で訳せること、そして内容を把握するためには文法の力も必要であることを体感しました。
また、授業を受ける姿勢として「これは何?」「本当に?」「どうしてそうなるの?」という3つを合言葉にして、本文で出てくる識別しづらい文法を取り上げながら、批判的に学ぶ意味を実感するワークを行いました。
最後に、「芥川」を題材としたテスト形式の問題に取り組み、グループで解答をすり合わせる時間を取りました。「分かっていたつもりのところができていなかった」「記述問題はかなり解けるようになった」「文法が自分の課題だから勉強していきたい」「みんなでやると答えに辿り着けた」など、様々な発見がある時間になりました。
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STEP4(2時間)
最後に、『古典力』(齋藤孝)の一節である「今、なぜ古典力が必要なのか」の本文を配付し、次の2点を単元末課題として出題しました。
問1.なぜ古典力は必要なのか。筆者の考えを説明しなさい。
問2.古典を学ぶ意味について、あなたの考えを説明しなさい。なお、この問いに正解はありません。自分のこれまでの経験をもとに記述してもいいですし、情報を収集したうえで自分の考えを記述してもいいです。誰かの考えを引き写すのではなく、現時点での「あなたの考え」を述べてください。
これまでの経験を振り返ったり、情報を収集したりすることによって、古典を学ぶ意味について生徒たちは思考を巡らせていました。
振り返り
今回の単元で設定した「伸ばしたい力」をもとに、単元全体の振り返りを行いました。(回答数:40名)

1と2を回答した生徒の多さが印象的ですが、自己評価で3と4をつけた生徒の記述を見てみると、
文化を継承させる働きがあることは実感できたが、発展させる働きはあまり実感できなかったから。
古文の内容や単語は授業の中で理解することができたが、係助詞や連体形などがまだ日本語訳している時に分からなくなってしまうことがあるので、そこの学びを深めたい。
古典は読んでそこそこ理解はできるけど、昔と今では考えや生活習慣が違いすぎて、あまり考えに共感や、反対がしづらかった。なので次読むときは、たくさんの古文に触れ、古文を知ることで、昔の考えに自分の考えを反映させたい。
と述べられていました。
これは、授業のねらいや目標を理解したうえで、自分の学びを客観的に見つめ、自らの課題に気付き、次にどうすればよいのかを考える力が育まれてきていると捉えられるため、注目すべき記述だと言えます。
また、単元全体の自由記述として、いくつかの感想を次に紹介します。
中学校のときは、古典が苦手で時代背景などをあまり気にせずになんとなくで古文を読んでいた。しかし、絵巻物をもとに自分の考えをたて、推測していくことで楽しく学ぶことができたと感じている。これからは「なんとなく」ではなく文化や時代背景を大切にして学んでいきたい。
この単元の学ぶ前は古典を学ぶ必要はないと考えていました。現代に必要がないから意味がないと思っていました。しかしこの単元を通して古典は現代文に自然とつながっていくという考えを持つことができ、必要があることだと思いました。他の単元でも古典を通して現代につながる何かを見つけたらいいなと思いました。
人生で初めてこんなにしっかり古文に触れたけど、訳していると現代文の小説を読むときと同じように、続きが気になり、読み込めば読み込むほど面白くなっていった。
古典の世界に入ると、言葉の表現力に驚かされ、過去の意味が含まれていたり、反対に意味を持たないものもあったり、思いの強さの程度を表すものもあったりと現代語訳に直すと普通に見えるものか古典では表面では違う形で表されているのがとても興味深いと思った。また古典の世界を知ることは、自分の物事に対する考え方や視点、選択肢を増やすきっかけになり、人生を豊かにすることができると思い活かしていこうと思った。
古文や絵巻物を読み解いていく活動を通して過去と現在の違いや共通点、古典の面白さを学習することができました。最初は古典なんか読めないし楽しくないと思っていたのですが、意味がわかるとどんどん進めたくなって楽しく学ぶことができるようになりました。また、ペアの人と協力してやることで自分では気づけなかったことに触れてくれたりして更に自分の考えを広げることが来ました。しかし、まだ言語文化を学ぶ意味ってなんだろうということが自分の中で明確に考えとして出せていないのでこれからの授業を積み重ねていき自分の考えをさらに深めていきたいと思いました。
苦手意識があった古文に対して、文法や単語を調べて取り組むことができた。一番成長できた力は、古文の時代背景や、登場人物の設定などを理解する力。パターンのようなものを覚えることが大事だと気づいた。これからも、文法や単語を学んで古典にもっと興味を持ちたい。
全体的に言葉を使って、どう見ていくのかなどの内容だったので、自分なりの考え方を文章でまとめると言う言葉のまとめ方という力を極めることができたり、多様な考え方をもって文章を読み進めていく力もついたと感じました。ですが、それは完璧と言える場所まで行ったのか?と言われるとそうではなく、古典の読み方などがまだ曖昧だと感じたので古典はこれからも勉強で触れていくと考えられるので少しでも一人で読み進めれるようにして行こうと思いました。
中学から学んできた古文はあまり好きではななく、凄く堅苦しいものだと思っていたけど、今回学んだものはそういったことはなく、逆にとても楽しいし、面白いものなのだと感じた。また、自分で文を訳してから中身に入ることで、より自分にとって内容が定着するし、新たな発見や達成感、どんどんストーリーが頭の中で展開されていく喜びを感じました。
伊勢物語も含め、古典はその時代の出来事などを記録したものではなく、時代ごとで人々の考えや感情を知ることができるものと言うことを学んだ。私はなんで古典を学ぶのかずっとわからなかったけれど『古典力』の「妥当性の足場を作る」というフレーズを読み古典の大事さがわかった気がしました。今を生きているからこそ昔を知ることが大切だと思い、古典を学ぶ姿勢がみについた。
生徒による単元全体の感想を生成AIでまとめたところ、次の結果が出ました。
1.古典への意識の変化
多くの生徒が、古典に対する苦手意識や否定的な印象から、理解できることで「面白い」「楽しい」と感じるように変化した。特に、物語としての展開や読解の達成感が興味関心を高めている。
2.古典を学ぶ意味の理解・再認識
古典は現代に不要という認識から、現代語や価値観とのつながりを実感し、その意義を見出す生徒が増えた。言語文化や思考の広がりに関わる学びとして捉え直されている。
3.文化的背景・時代理解への気づき
当時の価値観や生活、恋愛観などを現代と比較しながら理解することで、作品の読みが深まった。古典を文化的文脈の中で捉える視点が育っている。
4.読み方・学び方の変化(方法知の獲得)
文法や語句、文脈を意識して丁寧に読むことの重要性に気づき、「なんとなく読む」段階から脱却している。再現可能な読みの方法を身につけつつある。
5.絵巻物・協働学習の効果
絵巻物を手がかりに状況を想像することで理解が深まり、古文への親しみが高まった。また、他者との対話を通して新たな視点に気づき、解釈が広がっている。
6.思考の深まり・自己課題の自覚
自分の考えを持つことや表現することの重要性に気づき、学びを振り返る姿勢が見られる。一方で、まだ十分ではない点も自覚し、今後の課題として捉えている。
まとめ
今回の単元を通して、生徒は古典に対する苦手意識を乗り越え、「理解できることによる面白さ」を実感するとともに、古典を学ぶ意義を自分なりに捉え始めています。特に、絵巻物を活用した学習や協働的な読みの過程を通して、文化的背景や人物の心情に着目した多面的な読みが可能となり、従来の「訳すだけの学習」から「解釈し、考える学習」へと質的な転換が見られました。
また、生徒は読み方や学び方そのものを自覚し始めており、古典学習に必要な方法知の基礎が形成されつつあります。さらに、「古典を学ぶ意味」という本質的な問いに向き合う中で、自身の考えを持とうとする姿勢や、学びを今後へとつなげようとする意欲も見られ、学習が一過性の理解にとどまらず、継続的な探究へと広がる可能性が確認できました。
市立札幌藻岩高等学校国語科 對馬光揮
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