7月6日土曜日、今年度の第3回「校長カフェ」を行いました。前の週はすっきりしない天気の日が続きましたが、この日はとても天気が良く行楽日和であるにもかかわらず、24名の保護者の方にご参加いただきました。

 今回は、前回同様、全ての保護者の方から一言づつお話をいただいたのち、休憩をはさんで、第1回「校長カフェ」でも話題になりました、河合塾の「学びみらいPASS」のデータを活用したグループワークを実施しました。

 「学びみらいPASS」は、変化の激しい社会で求められる力を多面的に測定するツールとして河合塾が提供しているもので、2017~2018年度の2年間に「学びみらいPASS」を受験した高校生は8万人余りとのことで、本校では今年度初めて、「高校生のための学びの基礎診断」との位置付けで、4年生と5年生の全ての生徒を対象に実施しました。このツールの最大の特徴は、教科学力に加えて、学校や社会で活躍するための力であるジェネリックスキルと呼ばれるものを、知識を活用して課題を解決する力である「リテラシー」と、経験を積むことで身に付いた行動特性である「コンピテンシー」の2観点から測定しているところです。

 今回のグループワークでは、参加者の方に、1年から4年までの4年間、全ての生徒が学ぶ国際バカロレアのMYPと呼ばれる教育プログラムを修了した4期生のデータのうち、いくつかの特徴的なものを示し、データの見方を説明したうえで自由に感じたことを話し合ってもらいました。その上で、私の感じたことをお話させていただきました。その内容を全ての保護者の皆様と共有するために、概要を以下に掲載させていただきます。


 私から、4年間のMYPプログラムを修了した4期生の分析資料を見て感じたことを3点お伝えしたいと思います。

 1点目は、「学校や社会で活躍するための力」であるジェネリックスキル、具体的にはリテラシーとコンピテンシーについて、いずれも総じて高いレベルの生徒が多く、国際バカロレアのMYPを活用した課題探究的な学習の成果が表れているのではないかということです。これまで、課題探究的な学習の必要性については様々な形で発信してきましたが、このように課題探究的な学習の成果が具体的に「見える化」されたのは意味のあることであると考えます。

 2点目は、各教科レベルの平均値やレベル別人数を見ると、リテラシーやコンピテンシーと比較して、高レベルの段階にある生徒の絶対数は明らかに少なく、特に数学でその傾向が顕著であることが分かります。MYPでは知識の量よりも概念的理解をもとに正解のない課題を探究することに力点を置いていますので、当然と言えば当然の結果であると考えられます。ただし、知識は、私たちが様々に認識している問題の中から具体的な課題を発見したり、その解決に向けて課題を探究する際の思考を深めたりするのに必要不可欠な、いわば教養につながる大切なものですので、今回測定された知識が、今述べた教養につながる知識の不足を示すものなのか、大学受験を考えるときに必要な知識の不足を示すものなのかについては、しっかりと見極める必要があります。ちなみに、もし保護者の皆様が大学受験を考えるときに必要な知識の不足を心配しているのであれば、私の考えでは十分対応可能だと思います。これは、ジェネリックスキルのようにじっくりと時間をかけなければ身に付かないものとは異なり、進路実現のため、ある程度の期間、集中して時間をかけ、効率的に学習することで身に付く類のものだと思うからです。

 3点目は、①教科学力、②リテラシー、③コンピテンシーからなる学力の三要素のバランスで見たときに、①、②、③の順に「△/○/○」で「交友充実」型、同じく「△/○/○」で「進学準備中」型、同じく「○/○/○」で「進学準備中」型の順に人数が多い傾向にあるという点を取り上げたいと思います、これは、前向きな言い方をすれば「伸びしろ」が十分にある、言い方を変えれば、まだ大学受験に本気で向き合っていない(本気モードになっていない)、ちょっと否定的な言い方をすれば大学受験に向き合うことから逃げているということが想定されます。

 では、こうした分析をもとにどのように考えれば良いかということですが、まず、1点目のMYPに取り組んできたことで培ってきたジェネリックスキル、IBで言えばATLスキル、前回の「校長カフェ」で触れた茂木氏の言葉で言えば「地頭力」、こうしたものがしっかり身に付いていることを肯定的に評価することが大事だと思います。その上で、2点目の教科学力の課題を冷静に捉えて、ここで突然指示的になったり依存心をあおるようなアプローチをするのではなく、放任ではなく戦略的に見守る「SELF」という本校独自の考え方に基づき、大学受験という課題探究的な学習に「自ら」取り始めるよう促すことが大事なのではないかと思います。そして、3点目のいつ大学受験と正面から向き合うかという点ですが、これは個人差もあり目標も一人一人異なりますので画一的なことは言えませんが、これも4期生には先日の保護者集会でも学年主任の方からお伝えした、いつ「SHIFT」するのかを意識しながら見守るのが良いのではないかと思います。いずれにせよ、最後の最後に子どもの主体性を奪って依存と責任転嫁の世界に入り込んでしまわないように、私たち大人は心掛ける必要があると思っています。

 最後に、本日の話で一つだけ気をつけなければならないことに触れておきます。今、私は「学びみらいPASS」の結果を、本校の取組状況を分析する観点から平均値や全国値との比較をしながら説明しましたが、これはいわば「開成丸」という船の進むべき方向性が間違っていないかどうかを確認するためのもので、一人一人の結果分析とは別の話です。個人票を見るときは、何度もお話ししていますが、「開成丸」の方向性を把握しつつも、何かと比較して優劣を論じるのではなく、子どものどこが強みでどこが弱みなのかを見極めた上で、強みの部分をほめてあげてほしいと思います。国際バカロレアのDPの履修生へのアプローチも全く異なると思います。また、特に心配な部分があれば個別の支援が必要かどうか相談してみる必要があるかもしれません。くれぐれも一人一人の子どもの結果を、単純に「開成丸」の結果に置き換えてしまわないように、大人である私たちは、お互いに気を付けたいと思います。


 今回はこのような話をさせていただきました。本日も最後までお付き合いくださりありがとうございました。

令和元年(2019年)7月8日