第6回卒業証書授与式式辞【校長室の窓】
松尾芭蕉の門下で10人の優れた人々を蕉門の十哲と言いますが、その十哲の一人である服部嵐雪の句に「梅一輪 一輪ほどの あたたかさ」という句があり、解釈は諸説ありますが、その中の一つに「梅の花が一輪ずつ咲くにつれて、少しずつ暖かくなってきている」というものがあります。本州ではすでに梅の開花が始まっていますが、まだまだ雪深いここ札幌ではまだ先のことです。しかし、心なしか、ここ数日の気温の高さもあり、3月の声が聞こえると寒さの厳しかった冬が終わりを迎え、新しい春に向けて心も温かくなってきます。
本日、このような佳き日に旅立ちを迎えられた6期生の皆さん、卒業、おめでとうございます。また、保護者の皆様には、これまでお子様を支えていただき感謝申し上げますとともに、卒業の日を迎えられましたことに心からお祝いを申し上げます。また、本日は、お忙しい中、御来賓として、PT会会長山田泰行様のご臨席を賜り、第六回卒業証書授与式を挙行できますことに感謝申し上げます。
さて、社会の急速な変化が叫ばれる中、教育の在り方も大きく変化してきました。高度経済成長期、大量生産・大量消費型の「工業社会」を支えるための人材を育成するため、一斉に画一的な教育が施されました。しかし、現在のようなグローバル化する「知識社会」では、一人一人が答えのない問いに立ち向かい、新しい価値を創造する力を身に付けるための教育の必要性が叫ばれ、すでに長い時間が経過しています。
12年前、札幌市教育委員会が示した「札幌市中高一貫教育校設置基本構想」に次のような記述があります。「近年、科学技術の高度化や情報化、グローバル化が急速に進み、こうした社会の急激な変化に対応するため、自ら課題を見付け考える力、柔軟な思考力、身に付けた知識や技能を活用して未知の問題や複雑な課題を解決する力、他者を受容し関係を築く力など、豊かな人間性を含む「総合的な知性」がますます必要とされており、各個人が自立した一人の人間として現代社会を生きていくために、生涯にわたって生徒自身が主体的に学び続けていくことが求められています。」
この考え方のもと、開校した本校において、6期生の皆さんは、入学以来、学校教育目標「わたし、アナタ、min-na そのすがたがうれしい」の考えを踏まえ、国際バカロレアの教育プログラムにより、10の学習者像に迫る「総合的な知性」を高めてきました。また、コロナ禍の中、規模を縮小せざるを得ませんでしたが、それでもスーパーサイエンスハイスクール指定などによる様々な国内外の研修プログラムや他の学校の生徒との交流、各種のコンテストなどに参加することなどしながら主体的に学び続けていく姿勢を貫きました。
皆さんがこれから進む社会は、今、様々な課題を抱えています。世界では、環境問題や地政学的な問題もさることながら、それに端を発したエネルギーや食糧の問題をはじめ、安全保障の問題など、世界のリーダーでも解決が難しいことが起きています。また、足元に目を向ければ、本来、地域がもっていた、個人や家庭だけでは解決できないような問題の深刻化を緩和する機能も薄れてきています。どのような課題に対しても、前向きに、そしてグローバルな視点をもって考えていくことが求められています。
文化の違いや考え方の違いをはじめとした世界の複雑さを実感するとともに、自らの力の小ささを感じることもあったかもしれません。しかし、大切なのはこれからです。本校で学んだこと、そして身に付けたことをどのように生かしていくのか、それこそが真に問われていきます。常に常識を疑い、何が正しく何が間違っているのか、真に答えのない社会とどのように関わっていくのか、どう生きていくのか。学びはここで終わるのではなく、実はこれからが本当の学びの始まりではないかと思います。
改めまして、保護者の皆様には、お子様の御卒業、誠におめでとうございます。また、6年間、お子様を支えていただき重ねて感謝申し上げますとともに、本校の教育活動に御理解と御協力、御支援をいただき本当にありがとうございました。本校に在籍していたこの6年間は多感な時期であり、お子様との関わりの中で難しいこともあったかと思いますが、どのようなときでも愛情を注いでいただき、ありがとうございました。
結びになりますが、卒業生の皆さんには、身に付けた将来にわたる学び方や考え方を駆使して、これからの社会をより良いものにしていってほしいと思います。これからの社会で中心となって活躍するのは間違いなく皆さんです。本校での6年間の学びを終え、卒業する皆さんの今後の活躍を期待するとともに、実りある豊かな人生を歩むことを信じて、第6回卒業証書授与式の式辞といたします。
令和5年3月1日
市立札幌開成中等教育学校 校長 宮田佳幸