新しい年が始まりました。しかし、年明け早々、地震や航空機事故があり、新年を祝うどころではない状況となってしまいました。特に地震に関しては、その後の報道等により、被災地域の状況がわかり胸を痛めました。早い復興を願ってやみません。

そのような中ですが、年が明け、学校では、新入生を迎える入学者選考検査をはじめ、新年度に向け、様々な準備を進めているところです。６年生に関係することでは、大学入試共通テストが終わり、これから、私立大学の一般試験、国公立大学の個別検査すなわち２次試験が行われます。その試験が終われば、比較的時間にゆとりがあり、何もせずにいるとあっという間に時間だけが過ぎていきます（私自身もそうでした）。

先日、出席した会議＊１で、高校における年内の大学合格内定者の入学前指導について、「資格取得を目指し検定試験受検を推奨」、「放課後・冬季休業中の講習等の受講奨励」が多くの割合を占め、多くの高校では大学入学前の学習意欲を高めることを狙いとして実施されているとの報告がありました。

「ギャップ・イヤー」という言葉があります。これは、イギリスで1960年代から見られるようになった、高校卒業後、大学入学前に行われる入学までの猶予期間のことで、その間に学校以外の様々なことを経験する体験する期間を指します＊２が、学習意欲を高めることだけではなく、人生経験を豊かにする体験をしてほしいと思います。

過去の「校長室の窓」にも書きましたが、沢木耕太郎さんの著書「深夜特急」＊3は沢木さん御自身が２６歳のとき、軌道に乗っていたルポライターの仕事をすべて投げ出し、香港へと旅立ち、陸路２万キロをバスでロンドンまで目指したお話です。「なぜユーラシアなのか、なぜバスなのか。確かなことは自分でもわからなかった。ただ、地球の大きさをこの足で知覚したかった」と語っています。

私は走ることを楽しみにしていますが、これまでいろいろなところを走りました。開成高校時代に実施していた全校強歩—真駒内から支笏湖ポロピナイまでを走ったり、東京の奥多摩の山の中を走ったり、京都を取り囲んでいる外輪山を縦走したり、海から富士山の山頂まで走ったりと、自分の足を使うことで、日本の広さ・山の高さ、そしてその土地の季節を感じてきたところです。

幕末に活躍した土佐生まれの坂本龍馬の維新への移動総距離は、１９歳での土佐出立から３３歳での暗殺までを合わせると、約46,000キロにもなっているそうです。これは、地球一周（約40,000キロ）よりも長く、他の幕末志士を圧倒する移動距離でした＊4。この時代はもちろん車はありません。船での移動を差し引いても、自分の足で歩いた距離のなんと長いことでしょうか。

先日、走って日本を一周した方とお話しする機会をいただきました＊５。車やバイク、自転車で日本一周をしたという方は多いですが、自分の足でそれも走って日本を一周するということはどうことか聞いてみました。その話の中には、挫折をした話やそれを乗り越えた話、人のやさしさに触れた話など、走って日本を１周した事実以上に、興味深い話を聞くことができました。

「漢書―趙充国伝」に次のような記述があります。「漢の宣帝が反乱を起こしたチベット系の遊牧民族を鎮圧するために、趙充国に必要な戦略と兵力を尋ねた。充国は「百聞は一見に如かず。遠く離れた場所で戦略は立てにくいので、自分が現地に行って実際に見たものを地図に描き、策略を申し上げたいのですが」と許しを請うたと記されています＊６。

今は家にいながら世界中を旅することができます。インターネットで、世界中のあらゆるところを見ることができます。しかし、その国の大きさ、食べ物の味、土地のにおい等など、実際に現地に行かなければわからないこともたくさんあります。

インターネットが全盛の今だからこそ、百聞は一見に如かず、実際の体験が意味をもちます。

 

＊１　　全道高等学校長調査研究協議会報告会（道教委主催、2024年１月１７日実施）より。

＊２　 文部科学省「学事暦の多様化とギャップタームに関する検討会議（第２回・２０１３年１２月２日 ）」用資料より。

＊３　　単行本第1便及び第2便1986年5月発行、第3便1992年10月25日発行、ともに新潮社。文庫本は1994年発行、新潮社。

＊４ 　追跡 ！ 坂本龍馬（菊地明著、２００９年１０月１６日ＰＨＰ研究所発行）より。

＊５  前田将克さん。兵庫県出身で、現在は仁木町に在住。仁木ワインマラニックの主催者。2024年1月20日にお話を聞く。

＊６　　故事ことわざ辞典（株式会社ルックバイス）より。

 

１月１日に発生しました能登半島地震でお亡くなりになりました方に御冥福をお祈り申し上げます。また、被災された皆様にはお見舞いを申し上げるとともに、早く普段の生活に戻られることを願っております。

 

令和6年（2024年）1月22日

 

校　長　　宮　田　佳　幸