2023年度の1年生を対象に、「生殖医療の在り方~インクルージョンを考える~」という現代の国語の授業を実施しました。

●概要

 この単元では、提示された6つの新聞記事を読み、「障がいを抱えた方が幸せに生きられる社会の実現」をテーマにした個人レポートを作成します。

ⓐ新型出生前診断
ⓑ着床前診断
ⓒインクルージョンという視点
ⓓ障がいを抱えた方の家族へのインタビュー紹介(教員による聞き取り)
ⓔ障がいを抱えた方が幸せに生きられる社会の実現に向けて
ⓕ個人レポート作成

 副教材として採用している「どうしん記事データベースまなbell」を活用して情報を収集しながら、「生殖医療」「インクルージョン」「命」に関する資料を読み、多角的な視点を獲得することによって考えを深めていきます。

 なお、現代の国語の授業として実施しましたが、保健の授業でも生殖医療に関する内容を取り扱うため、保健との繋がりを意識しながら授業が行われました。

●第1部

 「生殖医療とはどのようなものなのか」ということを知ったうえで、生殖医療が妊娠率を高める可能性を持つ一方で「命の選別」に繋がる懸念があることを学びました。

 ある生徒は「産むのも産まないのも最終的には個人の判断が尊重されるべきだと思いますが、大切なのは『正しい情報を手に入れること』『深く考えること』だと思います。」と発言していました。

●第2部

 染色体に異常が見られるAさんの「私たちはいらない人間なのか」という発言をもとに、「命の選別」が社会に与える影響について意見を交換しました。

 ある生徒は「障害を持ってでも生まれるはずだった命が奪われる一方で、本来生まれることができなかった命が無事に生まれることもある。生殖医療の在り方というよりも、そもそも障がいを抱えた人が苦しまなくていい社会にしたい。」と発言していました。

●第3部

 その後、障害を抱えた方が幸せに生きられる社会の実現に向けて、「私たちができることは何か」というテーマで話し合いを行いました。最初は「偏見を持ったない」「困っている人がいたら声を掛ける」というような意見が多く出ていましたが、障がい者支援に関する情報を収集するうちに、北海道内でも毎週のように様々な取り組みが行われていることを知り、「社会には障害について学ぶ学習会などがあるから、積極的に参加し理解を深める。また、障害を持っている方の展示会やイベントを通して間接的に関わりを持つ。」「寄付などの特別な支援に目が行きがちだけど、スポーツなどを通した文化的な面での交流などが障害を持つ人を支えることも多いので、障害自体についての知識だけでなくパラスポーツなどの知識や技能を持って交流を深めていく。」「周りの人の配慮も必要だが、障害者の幸せは気遣いやサポートだけではなく、障害の有無に関わらず一人の人間として平等に生きる社会になることだと思ったので、交流イベントに行ってみたりしたい。」というような具体的なアイデアを出し合うようになりました。

●第4部

 熱心なアイデア出しが一通り終わったところで、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(伊藤亜紗 著)を抜粋したプリントを生徒に配付しました。

 その本の一節にはこのような言葉が載せられています。

序章で、健常者の善意がかえって障害者に対して壁を作ってしまう、というお話をしました。よく分からないからこそ、先回りして過剰な配慮や心配をしてしまう。『何かしてあげなければいけない』という緊張で、障害のある人とない人の関係ががちがちに硬いものになってしまうのです。障害者に対する悪意ある差別はもってのほかですが、実は過剰な善意も困りものなのです。

 いま出していたアイデアが、「何かしてあげなければいけない」という考えから生まれたものではないか、改めて捉え直すように問いかけました。この後、生徒たちは個人レポートを作成する第5部へと学習を進めていきます。

  デリケートな内容の学習でしたが、生徒たちは様々な立場から物事を捉え、言葉を選びながら自分たちの考えを述べていました。

 

市立札幌藻岩高等学校 對馬光揮