「春告魚」と呼ばれる魚がいます。北海道ではニシンを指しますが、冬から春にかけて、石狩湾沿いに多くのニシンの群れが、群来と呼ばれる海の色が白濁するほどの大きな群れが、今年も見られる季節になりました。

三月となり、今日のような陽気に誘われて、草木の芽吹きなど、、様々なところで春の始まりを感じるようになってまいりました。学び舎を後にする一抹の寂しさを感じつつ、これから始まる様々なことに、少しの不安と大きな期待を膨らませながら、卒業生の皆さんは今日の日を迎えられたと思います。

今日、晴れて旅立ちの日を迎えられた八期生の皆さん、御卒業、誠におめでとうございます。また、保護者の皆様には、六年間の長きにわたり本校の教育実践に御理解と御協力を賜り様々な教育活動を支えていただき感謝申し上げますとともに、お子様が卒業のときを迎えられましたことに心からお祝いを申し上げます。

また、本日は、お忙しい中、御来賓として、PT会会長様、資友会会長様の御臨席を賜り、第八回卒業証書授与式を挙行できますことに感謝申し上げます。

さて、皆さんは、この開成において、IBの教育プログラムを通じて、10の学習者像を念頭に置きながら、ATLスキルの獲得などを目指してきました。それは、SSHの課題研究においても、そのスキルは有効に発揮されていると感じています。また、学校生活だけではなく、皆さんの多岐にわたる地域などでの主体的な様々な活動は、地域とのつながりにおいても、大きな成果をもたらしました。先ほど皆さんが語ったSELF宣言を聞き、頼もしい青年になったと感心するとともに、この先もしっかりと地に足を付けて歩んでいけると確信したところです。

昨今、社会が大きく変化していると言われていますが、その変化のスピードも年を追うごとに速くなってきているように感じます。私たちもその変化のスピードに負けないように、様々なことを吸収しようと行動してきました。

しかし、社会がより良い方向に進むことについてはよいのですが、新たな問題を生んでいるのも事実です。これは世界規模のものもあれば、私たちの住んでいる地域のものもあります。様々な要因から、人々や地域の価値観は多様化し、どこに妥協点を見出していくのか非常に難しくなっているのが今の時代です。このような時代に、皆さんは次のステージに進んでいきます。

私たちが身に付けている価値観も、もしかすると既成の価値観にとらわれているかもしれません。例えば、最短距離で、最短コースで進むことがよいことのように言われますが、本当にそれでよいのかと疑問に感じることがあります。人生百年時代と言われて久しいですが、人生百年なら、そもそもそんなに急いで人生を歩む必要はあるのか、もっと様々なことをじっくりと時間をかけてやってもよいのではないか、あえて今しかできない経験をするべきではないか、とそんなことも考えてしまいます。

皆さんに求めたいのは、既成の価値観にとらわれず、IBSSHなど、開成で身に付けた様々なスキルや考え方などを、これからの未来に対して惜しみなく発揮してもらいたいということです。しかし、皆さんにはまだまだ学ぶべき多くのことがあります。これで終わりではなく、ここからが本当の始まりです。これからも学ぶことに対して貪欲になってほしいと思いますし、それだけではなく、優しさをもち、人の痛みがわかる、人間としての器を大きくして、懐の深い人間として、世界のために、地域のために、身に付けたことを惜しみなく役立ててほしいと切に願っています。

改めまして、保護者の皆様には、お子様の御卒業、誠におめでとうございます。また、六年間、お子様を支えていただき重ねて感謝申し上げますとともに、本校の教育活動に御理解と御協力、御支援をいただき本当にありがとうございました。本校に在籍していたこの六年間は多感な時期であり、お子様との関わりの中で難しいこともあったかと思いますが、どのようなときでも愛情を注ぎ、その背中を支えていただき、学校とともに歩んでいただきありがとうございました。

結びになりますが、毎年六月に札幌で開催される「YOSAKOIソーラン祭り」のソーラン節は、ニシン漁の作業歌です。ソーラン節を歌いながら、最盛期には春先の二、三か月の漁だけで、漁師は一年間生活できたといわれています。皆さんも、わずか6年間の開成での学びでしたが、様々なスキルを身に付け、人間として成長するための土台を確かなものにしたことと思います。

本校での学びを終え、卒業する皆さんの今後の活躍を期待するとともに、実りある豊かな人生を歩むことを強く信じて、第八回卒業証書授与式の式辞といたします。

 

令和七年三月一日

市立札幌開成中等教育学校 校長 宮田佳幸