令和6年度後期始業式講話:目に見えていることだけが全てではない2
皆さん、おはようございます。今日のお話は前期終業式の続きです。
好きなことの一つに読書があります。「1週間に1冊読むぞ」と毎年元旦に誓いを立てますが、未だに達成できたことはありません。自分の読む分野は、自分でも偏っていると自覚しており、何か新しい本がないかと、よく職員室の先生方の机の上を観察しています。そんな中、英語の黒井先生の机の上の本の帯に書かれていた文章に興味をもち買って読んでみました。
その中に次のようなことが書かれていました。
アメリカのある刑務所では、自分たちのような受刑者を出さないために、犯罪歴のある若者に対して刑務所を訪問してもらう「スケアードストレイト」*と呼ばれる犯罪防止プログラムを実施。刑務所を訪問した彼らのある者は「今日から人生が変わった。これからは犯罪になるようなことは全部やめたい。必死で頑張る」といい、、皆、刑務所に行かずに済む方法を考えたとのことです。
この犯罪防止プログラムはドキュメンタリー番組になり、「参加した子供たちの80~90%がその後更生しているということです。これは驚くべき成功率で、従来の更生手段とはほとんど比較になりません」と番組の中では紹介されました。
プログラムの効果を示す統計データは目を見張るものがありましたが、のちの厳密な検証によって、効果がなかったことが示されました。逆に、刑務所を訪れた子供たちの再犯率が高くなることが明らかになったそうです。
この統計データはプログラムに参加した子どもの親などへのアンケートから得たもので、「刑務所を訪問したあと、お子さんの行動に目立った変化はありましたか」「お子さんにとって再訪問は必要だと思いますか」などの質問に「はい」や「いいえ」で答える形式でした。
目立った変化とは具体的に何を指すのかなど、質問自体もよくなかった点がありましたが、最も大きな問題は統計データの集計方法に問題があり、統計に加えられたのは「アンケートに答えた家の子どもたちだけだった」ということです。生活態度が改善した子どもの親だけがアンケートに答えていたことも十分に考えられ、データが歪んでいた可能性が指摘されました。
私たちは実際に目にしたことや聞きかじったことで物事を判断してしまいがちです。前期終業式でお話しした松井秀喜さんの5打席連続敬遠に対する考え方も報道で報じられた一方的な批判をうのみにすることなく、明徳の監督がなぜその作戦をとったのか、表には出てこない、目には見えない情報も読み取ることも必要ではないかと思っています。
開成では、全ての授業で探究活動を行っております。特に、SSH関連で様々なデータを分析して仮説を検証しています。全てのことを網羅して分析した結果なのか、考えを巡らせてほしいと思います。目に見えていることだけが全てではないというお話でした。
最後に、2017年の朝日デジタルからの引用です。朝日新聞さいたま総局は7月8日に開幕する第99回全国高校野球選手権埼玉大会の出場校の監督へのアンケートで、あの5打席連続敬遠について「あり」か「なし」かを尋ねた。
有効回答151人のうち「あり」と答えたのは79人(52%)、「なし」は51人(34%)。「どちらとも言えない」「その場に立たないとわからない」という意見も複数ありました。皆さんは、このデータを含め、5打席連続敬遠をどう見ていきますか。
今日から後期がスタートします。だんだんと寒くなってきますが、体調不良にならないよう、気を付けて生活していきましょう。終わります。
* 「スケアードストレイト」とは「恐怖を実体験させて、更生を促す」という意味。
令和6年(2024年)10月1日
校 長 宮 田 佳 幸