令和6年度前期終業式講話:目に見えていることだけが全てではない
皆さん、こんにちは。開成運動交流祭、お疲れさまでした。開成の学校教育目標「わたし、アナタ、min-na その姿がうれしい」の教育理念の一つに、「幅広い異年齢集団による学びあいを生かし、様々な文化と出会い交流できる環境を整える」というものがありますが、今日はまさしくそれが実現した日となったのではないかと思います。
さて、今日は開成運動交流祭でした。勝負の世界ですからもちろん勝ち負けはもちろんありますが、スポーツで汗を流しクラスや他の選手たちを応援している姿はとてもすがすがしい気持ちになります。そんなスポーツの話題から、前期終業式と後期始業式を合わせて、話をしたいと思います。
ドジャースの大谷翔平選手が前人未到の50-50を達成し、さらに記録を伸ばしております。国内に目を向けると、クライマックスシリーズへの出場に王手をかけているファイターズは2連敗中ですが、今日の楽天戦で決めてくれることを願っています。そのような中ですが、今週の月曜日9月23日に、「高校野球女子選抜チーム」と「イチロー選抜KOBE CHIBEN」の試合が東京ドームでありました。ゴジラの愛称で親しまれている松井秀喜さんも初めて出場し、往年のスイングを彷彿とさせる3ランホームランを放つなど、イチロー選抜が17対3で勝利しました。
松井選手で思い出すのが、1992年の夏の甲子園、石川・星稜対高知・明徳義塾の試合で、松井選手が5打席連続敬遠されたことです。この5打席連続敬遠はもちろん明徳の監督からの指示でしたが、試合中はもちろん、その後のテレビや新聞などでは、強烈な批判が報道されていました。
明徳が1点リードの星稜高校の最後の攻撃、2アウトランナー3塁で松井選手に5回目の打席が回りますが敬遠となり、スタンドの観客からメガホンやゴミなどが投げられ、球場はパニックとなり、試合は一時中断したのをその後のニュースで知りました。結局、試合は3対2で明徳義塾が勝利し、松井選手は敗れました。
ネットを見ていたら、富山大学の卒業論文にこの「5打席連続敬遠事件」についての記述を見付けました。大会本部や主催の朝日新聞社へ全国から1000本を超える賛否の電話があり、「選手宣誓でうたった高校野球精神を踏みにじる行為」「子どもの教育に悪影響を与える」「5回とも敬遠というのはやりすぎだ」との批判的な意見がある一方、「勝つためには当然の策」「ルール違反ではない」といった擁護する意見もあったとのことです。
一方、明徳の監督は「正々堂々と戦って清く散るというのも一つの選択だったかもしれないが、県の代表として、1つでも多く甲子園で勝たせたかった」と語っていたと記述されていました。
昨年の10月、スポーツ総合雑誌「Sports Graphic Number」の公式サイトNumberWebでこの5打席連続敬遠の夏から31年と題して、監督へのインタビューの記事が掲載されていました。
エースの右ひじ痛が完治せず、野手兼任の投手しかいなかった。監督として、あらゆる可能性を考えながら、導き出した作戦であり結果だった。「うちにくる子は、希望する学校に行けなかった子が多かった。うつむきながら入学してくるんよ。そんな生徒たちに自信をつけて卒業してほしかった。一生懸命練習し、自分がいけなかったような学校に勝利することが、彼らの未来につながると信じていた」と語っていました。
5打席連続敬遠というお話でした。この作戦を指揮した監督の視点、選手の視点、相手チームから見た視点、松井選手からの視点、高校野球に関係する人々の視点、観客やテレビを見ていた人々の視点など、様々な考え方や意見がありました。
私たちは実際に目にしたもので判断しがちですが、その背景にあるものにも思いを巡らせていくことが大切だと思います。
今から30年余りも前の、皆さんが生まれる前の出来事ですが、皆さんはどう思いますか。
この話の続きは後期始業式で話をしたいと思います。終わります。
令和6年(2024年)9月26日
校 長 宮 田 佳 幸