令和2年度 卒業証書授与式 式辞

校 長  林  恵 子
 長く冷たい冬も終わりに近づき、太陽の輝きや、空気の明るさに、春の訪れが間近いことを感じるようになりました。この一年間、例年とは違う様々な困難を一つ一つくぐりぬけながら、本日3月1日を迎えました。
市立札幌旭丘高等学校 第61期卒業生311名の皆さん、卒業おめでとうございます。
 
PT会長     豊岡 亜紀 様
紫雲会会長     山本 清和 様
をはじめ、ご来賓の皆様にご臨席を賜り、心より御礼申し上げます。
 
 卒業生の皆さん、皆さんは今、高校卒業という大きな節目にあって、三年間のさまざまな出来事を思い出していることと思います。楽しいことも、時には厳しいこと辛いことも、きっとあったことでしょう。様々な学習活動、部活動や学校行事、友との語らい、これらのすべてを通じて、皆さんのものの見方や考え方が深まり、進みたい方向を探りながら自分の世界を広げてきたことと思います。
この一年間は、社会全体・世界全体が大変な困難に直面する中で、皆さんの学校生活にも大きな影響がありました。この困難を切り抜け、ピンチをチャンスにつなげていくためにどうしたらいいか、今、世界中がこの難しい課題に向き合っています。
皆さんは、二宮金次郎という人を知っていますか。二宮尊徳ともいう江戸時代後期の思想家・農政家です。昭和初期には、薪を背負って歩きながら本を読んでいる少年時代の像が、勤労や学問熱心の象徴として、多くの小学校の校庭に造られましたが、彼が成人してからの業績はあまり知られていないように思います。彼は多くの困窮し疲弊した地域の立て直しに尽力し、成功させた人でした。彼のやり方・考え方は、約200年後の現代に生きる私たちにもヒントを与えてくれます。
 金次郎の生きた時代は、洪水などの天災に起因する飢饉が続き、農村は疲弊し、人々の生活は苦しく、地域の財政は危機的状況になっていました。金次郎は、今の神奈川県小田原の裕福な農家の出身でしたが、水害がもとで一家は没落し、両親も亡くなり、貧しい生活の中で苦労しながら働き、学びました。その後、小田原藩主の分家の領地で経済復興を主導した手腕を認められ、各地に招かれていくつもの困窮する村や藩の財政再建をなしとげ、関わった地域は関東地方を中心に生涯で約600にも上ったそうです。そのやり方は、例えば、今の福島県にあった相馬藩に招聘されたときは、過去180年間の詳細な歳入を調べて、これを60年ずつ三期に分けて集計し、中位の60年間の平均歳入を藩の平年歳入と見做し、さらにこの180年を90年ずつ二つに分け、収入の少ない方の歳入額を基準に藩の歳出額を決定し、歳入が歳出を上回る年があればその分で荒れ地を開墾し新しい田を拓き、その新田は開墾者に与えるという法を作って開墾を奨励し、経済を豊かにしました。収入によって支出を決める、余剰金を設備投資や将来の備えにまわす、開墾者を優遇して新田開発を促進する、というようなことは、今では当然と思える大変合理的なことですが、この当時には当たり前ではありませんでした。
金次郎がこの財政再建を成功させることができた理由は、大きく二つあると思います。第一には、まず記録をしっかり調べ、統計データに基づき根拠を持って具体的なプランを立案し、実践に取り組んだこと。第二には、彼が弱者に対する思いやりや類まれなる誠実さをもち、人々との対話を大切にしたので、初めは彼と異なる意見を持っていた人も含め、周囲の人々の気持ちを動かし、賛同者を得たことです。この二つのことは、現代でも、そしておそらく未来においても、多様な人たちとともに困難な課題にあたる上では、なくてはならない要素です。
 金次郎の思想は、多くの人に影響を与えました。日本経済の父といわれる渋沢栄一もその一人です。渋沢栄一の著書「論語と算盤」からは、学問や道徳と実社会の経済活動をつなげ、世の中の全ての人々を幸せにする社会や経済のしくみを作ろうとしていたことがうかがえます。ほかにも、豊田佐吉や松下幸之助といった、昭和の高度成長を支えた大企業の創始者たちも大きな影響を受けます。また、私たちに身近なところでは、札幌の街の中心を流れる創成川は、かつては大友堀と呼ばれる用水路でしたが、明治の初めにその大友堀を開いた大友亀太郎という人物も、金次郎の晩年の弟子です。
 ここで私が皆さんにお伝えしたいのは、皆さんの高校での学びは、学校の中だけで終わることではなく、学んだことを自分なりに咀嚼して社会に活用していくことが大切であり、また、その際には、困難に直面する人や弱者への思いやりを持ち、社会全体の幸福につなげていこうとすることが、大切であるということです。そのためには、これから進学して学問を深める人も、社会に出て実践にあたる人も、世の中のことによく目を開き、それを自分事として、考え、関わって下さい。旭丘高校を巣立つ皆さんが、これからの幸せな未来社会を築き、一人ひとりがかけがえのない豊かな人生を歩んでいくことを心より願っています。
 
保護者の皆様、本日は、この式場でご参列いただくことはかないませんでしたが、画面をとおしてご覧いただいている方もいらっしゃるかと思います。お子様の高校ご卒業、誠におめでとうございます。今日までの十八年間、深い愛情をもって育んでこられたお子様の成長を振り返る時、そのお喜びはいかばかりでありましょうか。三年間、本校の教育活動に、皆様の深いご理解とご支援を賜りましたことに、心より感謝申し上げます。
併せて、この度は新型コロナウイルス感染症への対策として、変則的な形での卒業式実施となりましたが、保護者の皆様のご理解とご協力に厚く御礼申し上げます。
 
最後になりましたが、卒業生の成長を見守りご支援をいただきました紫雲会、紫水会、近隣地域の皆様をはじめ関係の皆様に心より感謝を申し上げ、私の式辞といたします。
 
令和3
市立札幌旭丘高等学校長  林 恵子